第15章 修羅場を超えて見えた景色 〜全国展開前夜〜


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沖縄17店舗の光と影

沖縄本島に17店舗を展開し、スタッフは50名を超え、月に同時に3店舗をオープンさせる勢いがあった頃。私の毎日は24時間、仕事のことだけを考え、夜中までスタッフとロールプレイを繰り返し、未来の夢を語り合った。

宜野湾の本社では毎週末になるとBBQを行い、店内にキャンプ道具を持ち込み、スタッフ全員でカレーや焼きそばを作って食べた。正月にはお世話になった人々を招き、店舗前でビアカンチキンを焼いて新年を祝った。給料日はサムズでステーキを食べ、毎月トップを取ったスタッフには賞金と花束を渡した。半月に一度は沖縄全店舗を閉め、伊計島や海辺で家族も連れて泊まり込みのビーチパーティを開催。笑い声と音楽に包まれ、夢のような時間が広がっていた。

しかし、その裏側には、常に資金繰りと人材育成の苦労、そして数々の修羅場が潜んでいた。


閉店で涙した日

17店舗の中には、どうしても軌道に乗らない店舗もあった。家賃が重くのしかかり、スタッフのモチベーションが続かず、売上も伸びない。必死にチラシを配り、深夜まで作戦を練り、何度も現場に立ったが、結果は変わらなかった。

ついに閉店を決断した日のこと。最後の営業を終え、シャッターを下ろす瞬間、胸の奥から熱いものがこみ上げた。スタッフも一緒に泣き、誰も声を出せなかった。鉄のシャッターが落ちる音が「夢の終わり」を告げる鐘のように響き、心に深く刻まれた。だがそのとき、「失敗の中にこそ学びがある」と強く思った。


スタッフ夜逃げの事件

さらに追い打ちをかけるように、ある店舗の責任者が突然夜逃げした。オープン当初から信頼して任せていた若者だった。店の鍵は閉じられ、在庫はそのまま。スタッフも混乱し、電話も繋がらない。私は夜中に車を飛ばし、その店舗に駆けつけた。

鍵をこじ開け、暗い店内に入ると、ポップやチラシが散乱していた。怒りよりも、むなしさが先に押し寄せた。責任者としての重圧に耐えきれなかったのだろう。残されたスタッフに「大丈夫だ、俺が何とかする」と言いながら、胸の内では「信じていた仲間がいなくなる」孤独に震えていた。


お客様に救われた瞬間

資金繰りが最も厳しかったある日。銀行からは追加融資を断られ、現金が回らず、給料日の支払いも危うい。そんな時、一人の常連客が店に現れた。

「社長さん、最近顔色悪いよ。大丈夫か?」

冗談めかして笑う彼に、思わず弱音をこぼした。すると、そのお客様はこう言った。

「あなたが作ったこの店、うちの子にとって大事な場所なんだ。潰れたら困るよ。応援するから、頑張って続けてくれ。」

そう言って追加の修理を依頼し、さらに友人を紹介してくれた。その輪が広がり、資金繰りの危機をしのぐことができた。涙がこぼれそうになるのをこらえながら、「お客様に支えられている」という実感が心に刻まれた。


仲間と過ごした夜

苦しい中でも、スタッフたちは一緒に走り続けてくれた。宜野湾本社で夜遅くまでロールプレイを繰り返し、「次はどんなサービスを考えようか」「全国に出るとしたらどこがいいか」と夢を語り合った。

ある若手スタッフが言った。
「社長、俺たちはただのアルバイトじゃないっすよね。沖縄から全国に出る物語の登場人物なんすよ。」

その言葉に胸が熱くなった。若い彼らは、私以上に未来を信じ、燃えていた。


スタッフの声

匿名で残されたあるスタッフの日記を、今も忘れられない。

「社長はよく怒るし、無茶を言う。でも、不思議とついて行きたくなる。俺たちが落ち込んでるときは、一緒に飲んで笑わせてくれるし、夢を見せてくれる。社長がいなかったら、俺はとっくに挫折してたと思う。」

この言葉は、どんな表彰状よりも私を支えてくれる宝物だ。


修羅場を越えて見えたもの

閉店の悔しさ、仲間の離脱、資金繰りの不安。それらはすべて、全国展開へ進む前に与えられた試練だった。修羅場を通してわかったのは、店や商品ではなく、「人」がすべてを動かしているということだった。

スタッフが笑顔で働ける場をつくること。お客様が安心して来てくれる場を守ること。その積み重ねが、次のステージへ進む唯一の道だと気づいた。

夜のオフィスで一人机に向かいながら、ふと窓の外を見ると、沖縄の夜空に星が瞬いていた。あの星々のように、この小さな島から光を放ち、やがて全国へ広がる未来が見えた気がした。

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