第4章 ディスコ黒服で学んだ接客の基礎


北谷、米軍基地前の熱気

高校卒業後、私が足を踏み入れたのは北谷の米軍基地前にあるディスコでした。
昼間は静かな海辺の街も、夜になれば基地から押し寄せる米兵たちで一変。
店内には筋骨隆々のマリーンたちが集まり、汗と酒と音楽が渦を巻く独特の空気に包まれていました。

「黒服」としての私の仕事は、お客様の案内や接客だけでなく、トラブルの火種を見つけ、
時には身体を張って抑え込むこと。
華やかな音楽の裏側で、常に緊張感が漂う舞台だったのです。


はじめての修羅場

忘れられないのは、初めて修羅場に遭遇した夜のことです。
あるグループのマリーンが、ちょっとしたきっかけで口論を始めました。
声が荒くなり、次の瞬間には拳が飛び交い、テーブルがひっくり返り、ボトルが床に転がった。

「止めろ!」と心では叫んでいても、身体はすぐには動かない。
恐怖心と責任感の狭間で、足が震えました。

しかし、その場を放置すれば店全体が大混乱になる。
意を決して私は間に割って入り、腹の底から声を張り上げました。

「HEY! STOP!!」

拙い英語でしたが、不思議とその瞬間、彼らの動きがピタリと止まったのです。
そして次第に周囲のスタッフや他の黒服も加わり、事態は収束しました。
終わったあとに心臓がバクバク鳴り、膝が笑っていたのを今でも覚えています。

あの夜が、私にとっての「度胸の原点」でした。


外人住宅街で育った耳と、英語の悔い

幸いにも私は外人住宅街で育ち、英語を自然と耳にしていたため、マリーンたちの言葉はある程度理解できました。
スラング混じりでも「何を言いたいか」は察することができたのです。

ただ、自分から言葉を発するとなると、途端に語彙が出てこない。
「Yes」「No」「OK!」程度しか返せないもどかしさに、何度も悔しい思いをしました。

「もっと学生の頃に英語を勉強しておけば…」
毎晩のようにそう痛感しながらも、目の前の現場では堂々と立ち向かうしかありませんでした。


人間観察と空気を読む力

ディスコの現場で磨かれたのは、言葉以上に「人を観察する力」でした。
入店してきた瞬間の服装や表情、歩き方で客の気分を察知する。
「今日はただ踊りたいのか」「酒をあおって暴れたいのか」——その違いを瞬時に見極める。

常連客には「今日はいい席を空けてますよ」と声をかけ、荒れそうな客にはさりげなく近くに立ってプレッシャーを与える。
言葉よりも「仕草」と「空気づくり」で場をコントロールしていったのです。


修羅場を超えた先にあったもの

やがて私は修羅場に動じなくなり、むしろ「どう収めるか」を冷静に考えられるようになりました。
相手がマリーンであっても、堂々と目を見て、低い声で「Calm down」と伝える。
それだけで場の空気が変わることもある。

「人は言葉よりも態度を感じ取る」
それを体得できたのは、この北谷のディスコでの日々のおかげでした。


ディスコ黒服から得た学び

華やかさの裏に常に危険が潜むディスコの現場は、私を大きく鍛えてくれました。

  • はじめての修羅場で得た度胸
  • 外人住宅街育ちで培った「耳」と、勉強不足への悔い
  • 英語以上に大切な「人を観察し、空気を読む力」
  • 接客の本質は「相手を楽しませること」

この経験があったからこそ、後に営業マンとして全国1位を取ることも、
経営者として人を導くこともできたのだと思います。

北谷の夜の熱気と、マリーンたちの怒号と笑い声。
それらは今も私の中で「人生の訓練場」として生き続けています。

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